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自衛隊は在外邦人を救出できるのか

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以前、日本人が海外でクーデターなどに遭遇した場合、どのように身を守るのかについて書きました。

yyz095.hatenablog.com

この記事の最大のテーマである、「在外邦人を自衛隊は救出できるのか」について少し深堀してみたいと思います。

結論から申し上げれば、「状況にもよるが、救出はおおよそ不可能」です。

2015年に成立した平和安全法制によれば、

一定の要件を満たせば、自衛隊が、「輸送」のみならず、生命又は身体を防護するため武器を使用して、「警護」や「救出」もできるようにした

 とのことです。(平成28年防衛白書『<解説>在外邦人等の保護措置について』)

www.mod.go.jp

想定されるシチュエーションとして、防衛省は以下の様なものを挙げています。

外国において大規模な災害が発生した際に、当該国政府の治安当局が被災者救助等のために、邦人保護に振り向ける要員が不足し、邦人保護が十分にできないような状況において、自衛隊が邦人等を輸送するために邦人等の集合場所に向かっているときに状況が変化し、その集合場所の邦人等が暴徒等に取り囲まれてしまったような場合、また、わが国の大使館等が占拠され邦人等が人質となるなどの状況において、当該国政府よりも自衛隊の対応能力が高いことから、当該国政府が自衛隊による対応を受け入れるような場合を想定しています。

 (平成28年防衛白書 同上)

なんとも長ったらしく分かりにくい文章ですが、要は邦人が被害にあっている状況下で、その国の政府や治安当局が邦人保護を行えない場合、自衛隊がその邦人を輸送・保護するなど自衛隊が邦人保護任務を遂行できる様になった、とのことです。

また、自衛隊による保護措置の実施の際には、以下の3要件を満たしていることが前提となります。

① 保護措置を行う場所において、当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たっており、かつ、戦闘行為が行われることがないと認められること。
自衛隊が当該保護措置を行うことについて、当該外国等の同意があること。
③ 予想される危険に対応して当該保護措置をできる限り円滑かつ安全に行うための部隊等と当該外国の権限ある当局との間の連携及び協力が確保されると見込まれること。

 (内閣官房『「平和安全法制」の概要』)

https://www.cas.go.jp/jp/houan/150515_1/siryou1.pdf

ここに大きな欠陥が潜んでいるように筆者には思えるのです。

自衛隊が保護措置を行う場所が現地当局の法的支配が及んでいる必要がある点と、現地当該国が自衛隊の受け入れを良しとしている、ということ。

ハイジャック事案においては、これら条件はクリアされています。

アルジェリア武装集団によるハイジャック事件「エールフランス8969便ハイジャック事件」をベースに考えてみましょう。

エールフランス8969便ハイジャック事件 - Wikipedia

GIAという武装集団のメンバー4人にハイジャックされたエールフランス8689便は最終的にマルセイユに着陸、GIGN(フランス国家憲兵隊治安介入部隊)が突入し8689便を制圧した事件です。

これを例えば、某国で日本人が多数搭乗するJAL便がハイジャックされ、地元当局に救出作戦を行えるだけの能力がない場合で想定すると、平和安全法制に基づき自衛隊の特殊部隊(おそらく特殊作戦群)が航空機に突入し制圧する作戦は実行可能となります。

もちろん、現地当局や現地政府が自衛隊の運用に同意していること(条件①と②を満たすこと)が大前提となります。

しかし、ハイジャックではなく、クーデターが発生した地域での自衛隊の作戦行動は可能なのでしょうか?

結論だけ申し上げると、答えは「ノー」であります。

邦人が自主的に避難も行えないような場所で、平和安全法制で提示されている条件をクリアできるような国や治安当局が存在する様には思えません。

映画『クーデター』では、現地政府はクーデターにより崩壊しています。現地に有効な国家主権が及んでいない時点で、条件①はクリアできません。クーデター勢力と現地政府や法執行機関との間で戦闘が行われる蓋然性が高いことも考えると、「戦闘行為が行われていない」との解釈も通用しません。

また、クーデター勢力が外国軍隊の活動を認めるとは到底考えられません。よって条件②もクリアできず。米軍の様に他国主権を侵害してまで作戦行動を取れるほど自衛隊防衛省も日本政府も法的に強くありません。野党から憲法違反であると強く非難されるでしょう。

結局、滞在先でクーデターや大規模な内戦が発生してしまった場合は、自衛隊による救出を期待するのは無意味、という結論に至ります。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

列挙した法的制約以外にも、自衛隊によるオペレーションを阻害する要素は多数存在します。

まず自衛隊の武器使用規定が、「警察比例の原則」に類似した規定であること。「警察比例の原則」とは、あくまでも制圧対象と同等の警察権しか発動してはいけません、という原則です。警察官が犯罪者と対峙した際、犯人が包丁で抵抗した場合は包丁またはそれに準ずる装備でしか対抗してはいけない、ということ。実際の現場では警棒やけん銃による威嚇発砲が使用されている様です。

www.sankei.com

京都府警右京署員が、近くの路上で包丁を持っている男を発見。男性巡査部長(35)が拳銃を取り出し、包丁を捨てるよう説得した。その後、男が「撃ってみろ」などと言って接近したため、巡査部長は上空に1発威嚇発砲。

「警察比例の原則」で厄介なのが、相手が攻撃してくるまで先制攻撃を行えないという点。米軍の交戦規定(ROE、Rule of Engagement)も「撃たれるまでは撃たない」である様なので特別に自衛隊だけが制約を受けている訳ではないですが、明らかに武装し敵意むきだしのクーデター集団に囲まれた際に自衛隊が先制攻撃により脅威を排除することは不可能に近いのです。

また、作戦を実行する際に必要な「インテリジェンス」を収集する諜報機関が日本には存在しないのも大きな問題です。

日本には内閣情報調査室自衛隊情報本部、警察庁警備局警備企画課、警視庁公安部、公安調査庁、外務省国際情報統括官組織などインテリジェンス機関は存在しますが、ほとんどは国内情報の収集やカウンターインテリジェンス(防諜、つまり外国のスパイやインテリジェンス活動を摘発すること)に特化しており、米国でいう中央情報局(Central Intelligence Agency)やロシアの対外情報庁(Service of the External Reconnaissance of Russian Federation)などに相当する、外国でのインテリジェンス収集(HUMINTなど)を行う機関が存在しません。

陸上幕僚監部運用支援・情報部別班」、通称「ムサシ機関」という陸上自衛隊の極秘部隊が冷戦期にソ連など外国でHUMINT活動に従事していたことが2013年に明らかになりましたが、明らかになっている情報を調べる限りでは米CIAやDIAなどに相当する大規模なインテリジェンス活動は行っていなかった様です。

陸上幕僚監部運用支援・情報部別班(別班)に関する質問主意書

ともあれ、自衛隊の部隊が作戦行動を取るために必要なインテリジェンスが集まらないのが現状です。

ただ希望的観測ですが、特殊作戦群の隊員が非公式に独自の情報収集を行う可能性はあります。特殊作戦群の隊員は高い匿名性を維持しており、語学や外国情勢にも通暁しているため、米陸軍特殊部隊グリーンベレー(Army Special Forces、Green Beret)や戦闘適応群(Combat Application Group、あるいはデルタ・フォース)の様な部隊独自のインテリジェンス活動は可能かもしれません。

ちなみに、米軍将校らは戦場で状況判断を下す際には「METTT」という要素を重視するそうです(冨澤暉『軍事のリアル』新潮新書 2017年 P217)。

  • Mission = 任務
  • Enemy = 敵
  • Troops = わが部隊
  • Terrain = 地形
  • Time = 時間

なお、海外での自国民救出作戦ですが、米国でも失敗することがあります。

2014年7月4日、ダーイシュ(あるいはイスラム国、ISIL)によって人質にされていた米国人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリー氏を救出すべく米陸軍戦闘適応群(Combat Application Group。またの名を1st Special Forces Operational Detachment Delta、第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊『デルタフォース』)がシリアで作戦を実行しましたが、フォーリー氏の救出は失敗。CAGも隊員1名が負傷しました。ダーイシュはおよそ1か月後の8月19日にフォーリー氏の処刑映像を公開。後にフォーリー氏の死亡が確認されました。

www.telegraph.co.uk

自国民救出作戦ではありませんが、ドナルド・トランプ政権発足から間もない2017年1月29日、イエメンのヤクラ(Yakla)で米海軍特殊作戦開発群(United States Naval Warfare Development Group、DEVGRU)がアルカイダメンバーのカッシーム・アル=リミ(Qassim Al-Rimi)を標的とした作戦を実行しましたが、アルカイダ等の敵対勢力の待ち伏せをうけ、DEVGRU隊員のウィリアム・ライアン・オーウェンズ兵曹長が戦死しています。

www.nbcnews.com

www.washingtonpost.com

thehill.com

軍事大国である米国でさえこれだけの規模の作戦で失敗をしているのです。装備やインテリジェンスに劣る我が国が、簡単に在外邦人救出作戦を行えないことは論を俟たないでしょう。

ただ、作戦を実行できるが失敗する可能性があるのと、そもそも作戦を実行できないのとでは大きな違いがあります。

平和安全法制を含めた、我が国の安全保障の法的整備の深化と国民的議論が必要です。紛争地域で日本人が嬲り殺され、その映像が世界中に流れてからでは遅いのです。